【Studies】刺繍でオリジナルの足袋をつくる

こんにちは、ファブラボ神田錦町の井上です。

デジタルファブリケーションにまつわるテクニックや実験結果を紹介しているStudiesですが、今回は利用者さんの目線でプロジェクトを紹介してもらいました。多摩美術大学で卒業制作を進めるスズキ サオリさんは、刺繍でオリジナルの足袋を制作しています。制作に至る経緯や、ファブラボの刺繍機がどう活かされたかなど、詳しく紹介してもらいました。


こんにちは、多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース所属のスズキ サオリです。

今回、大学の卒業制作で提出する作品の制作に、ファブラボさんの刺繍ミシン・タジマ製「彩」を利用させていただきました。私は3年後期から刺繍を施したオリジナルデザインの足袋を制作しています。今回はこの場をお借りして、作品の紹介をさせていただきます。

この作品は、私の地元である千葉県館山市船形(ふなかた)地区のお祭りからインスピレーションを受けたことをキッカケに制作を始めました。元々この地区ではお祭り衣装として足袋を着用する文化があり、私自身も毎年のようにお祭りに参加して足袋を履く機会がありました。お祭りへの参加、足袋の着用という自身の経験から、足袋のデザインに興味を持ち、お祭りに合わせたオリジナルデザインの足袋の制作が始まりました。

最初の1足目を制作した際は、大学の備品である家庭用の刺繍ミシンを使っていました。そこから、卒業制作では追加で5足制作する計画となり、作業の効率化を図るために教授に相談したところ、ファブラボ神田錦町の業務用機械刺繍ミシンのことを紹介して頂きました。

後日ファブラボさんにお邪魔して相談したところ、快諾して頂き制作に使わせてもらう事になりました。おかげで卒業制作の提出に間に合わせた制作ができ、教授からもお褒めの言葉を頂ける出来に仕上げることができました。

作品名:祭足袋 浜三(まつりたび はまさん)

機械刺繍の特性は目の細かい美しい刺繍が施せることと、刺繍中はほぼミシン任せで刺繍ができることだと感じています。特に今回使用した刺繍ミシンは、業務用ということもあり作業スピードが格段に上がりました。

大学で使用した家庭用のミシンでは、1足分の刺繍を行うために2ヶ月ほどかかりましたが、今回の業務用ミシンでは3ヶ月ほどで5足分制作することができました。(実際には週に1、2度程の作業時間だったため実質もっと短期間で制作できたことになります!)圧倒的な作業スピードのおかげで、追加で別作業を行えたので感謝しかありません。

他にも、機械刺繍の良い点として目の細かい美しい刺繍ができることが挙げられます。

刺繍といえば手刺繍を想像する方も多いと思いますが、アナログな手法ゆえに正確無比な刺繍が難しい手法です。その分味のある刺繍や温かみを感じる作品が制作できるというメリットがありますが、今回の私のように刺繍で足袋の生地を作るという点においては、綺麗で均等な刺繍が最適な場合があります。足袋全面に施された刺繍は、糸目のサイズが揃っていたり、縫い目が同じ方向を向いていることで、完成した時の出来栄えがグッと上がると感じました。

実際の制作風景です。このように機械に布とデータ、使いたい糸をセットした後はほぼお任せです!ピンと張った布の上に綺麗に刺繍を施してくれて、データ上で糸変えの指示を出せるので自動で行ってくれます。

画像の通り、文字などの細かい部分の刺繍もお手のものです。

刺繍の縫い方も変えることができ、画像のように厚みを持たせた刺繍を施すことも可能です。特に私の作品は、足袋(履き物)ということで立体作品に該当しますが、表面を普通の縫い方で刺繍すると平面的に感じてしまうので、このように一部立体感のある刺繍でアクセントをつけることが出来たのは作品の個性となってとても良かったです。

画像の通り、一見すると刺繍ではなく糸の毛質を活かした生地のようにも感じられる刺繍の細かさです。これを手刺繍で再現することは非常に難しく、改めて機械刺繍ならではのクオリティを実感します!これだけ密度の濃い刺繍になると、光の当たり具合や見る角度によって表面が艶やかに感じられるので、とても高価な素材を使っているようにも見えなくもないですね…!

作品名:祭足袋 堂之下(まつりたび はまさん)

ちなみに、この足袋に用いたデザインですが、これもファブラボさんで制作しました。刺繍用のデジタルイラストを描き、機械刺繍ミシン専用のソフトでデータ化して使います。このデータですが、画像データであればある程度なんでも刺繍データ化することが可能です。今回私はイラストを自作しましたが、写真やコラージュのデータでも作れると思います。このデザイン制作に関する点も機械刺繍ミシンの魅力だと思います。

私の足袋作品は2月末の卒業制作学外展で展示されます。全6足の足袋が並びますので、もし興味のある方は是非実物を見にきてもらえると嬉しいです!足袋作品は今後も制作を続けていく予定ですので、またどこかで発表できればと思います。

最後になりますが改めて、井上さん、ファブラボ神田錦町さん、刺繍ミシンの提供や制作の相談にのって頂きありがとうございました!


以上、タジマ「彩」を使ったスズキサオリさんの制作レポートでした。ワッペンなどのワンポイントの装飾としてではなく、生地自体を刺繍で表現する力作です。足袋の場合は片足あたり左右2面分の刺繍が必要で、1足あたり4面、6足で24面分の刺繍を行いました。広い刺繍面積と自動色変えのない家庭用刺繍ミシンでは、このような作業は大変です。刺繍データの作成にも徐々に慣れ、冒頭にレクチャーしたあとは24面分のデータもスズキさん自身で制作しました。

スズキさんの作品も出展している卒業制作展が秋葉原の3331 Arts Chiyodaにて開催されます。是非実物をご覧ください。

2023年 多摩美術大学 情報デザイン学科 メディア芸術コース卒業制作展 
「裏面上のステッチ」

会場:3331 Arts Chiyoda
会期:2023年2月24日(金)〜2月26日(日)(11:00~20:30(最終日は19:00まで))
>Webサイト