【Studies】3Dプリンターを活用する第3の方法
こんにちは、ファブラボ神田錦町の井上です。
我々が活動を始めた2012年頃に比べて、3Dプリンターもかなり敷居が低くなりました。始めるのは比較的簡単になったものの、継続して活かしていくところにハードルを感じることも多いかもしれません。3Dプリンターを活かす方法は、一般的に次の2つが主流です。
- 3Dモデリングソフトで自分で設計する
- 3Dデータの共有サイトからダウンロードして使う
前者は最もオーソドックスな方法で、モデリングソフトさえ使えれば望み通りの造形物を形にできます。プロ向けのCADソフトや3DCGソフトから、TinkerCADのような子供向けのソフトまで、さまざまなモデリングソフトが一般的になりました。モデリングソフトのスキルが至らない場合でも、後者の方法で3Dプリンティングを楽しむことができます。自身のスキルと自由度が相関するという点では、紙のプリンターと似た状況といえます。今回は、この記事のタイトルにもなっている「第3の方法」を紹介します。これは紙のプリンターではまず見られない、3Dプリンター特有の方法です。その方法とは、3Dプリンターを動かすためのプログラム「Gコード」を直接生成するという方法です。
Gコードを直接生成する
Gコードとは3DプリンターやCNCルーター、刺繍ミシンといった工作機械を動かすための、いわば機械用のプログラムです。上記2つの方法でこのプログラムに触れることはあまりありませんが、スライサーソフトで書き出したファイルをテキストエディターなどで開くとプログラムを見ることができます。Gコードを簡単に説明すると以下のようなものです。
G1 X10 Y10 Z0.5 F1000 E0.5 G1:機械に与える指示の種類(動かす) X10 Y10 Z0.5:指示の内容(X10 Y10 Z0.5の位置まで) F1000:指示の内容(1000mm/minの速さで) E0.5:指示の内容(材料を0.5mm3吐出)
各行の冒頭で機械に送る指示の種類を指定し、その後に指定した指示の詳細が続きます。ここでは”G1=動かす”という指示を例に出しましたが、他にも「ノズルを指定の温度にする」「原点に移動する」など、動作に応じた様々な指示があります。このような指示が何百〜何万行と連なり、機械を動かして造形させています。
このGコードを直接書き出すのが今回紹介する第3の方法ですが、もちろん1行ずつタイピングしていくわけではありません。ここでは、スライサーソフトで書き出すものとは異なるプロセスでGコードを生成する方法を紹介します。決して簡単な方法ではありませんが、先の2つの方法では形にできない独自の造形ができます。
パラメトリックデザイン
第3の方法で代表的なものが、パラメトリックデザインの手法を用いてGコードを生成する方法です。パラメトリックデザインとは、寸法や条件を変数(パラメーター)として扱いながら設計していくデザイン手法です。変数を変えるだけでモデルのサイズや形状を簡単に変えることができ、様々なバリエーションのモデルを瞬時に生成できるのが特徴です。Rhinoceros(3D CADソフト)とそのプラグイン「Grasshopper」が代表的なツールです。
度々紹介してきたこちらのランプシェードや、昨年参加したFabLab Sendai企画のアドベントカレンダーの制作に用いたのもパラメトリックデザインの技法です。側面の網目模様は変数を変えるだけで様々なパターンで生成でき、従来の3Dモデリング+スライサーソフトでは表現できないテクスチャーです。
こうしたパラメトリックデザインの活用は、3Dプリンターをはじめ現在のデジタルファブリケーションでトレンドになってきています。とはいえ、決して安くないRinoceros+Grasshopperをいきなり始めるのは躊躇する場合もあるでしょう。そこで今回は比較的始めやすいツールを2つほど紹介します。
Beegraphy
まだベータ版ではありますが、Beegraphyはブラウザ上で編集できるパラメトリックデザインツールです。
専用のアカウントを作成すれば、現状無料でパラメトリックデザインを始められるサービスです。かなりGrasshopperを意識したと思われますが、ベータ版でも完成度の高いツールになっている印象です。パラメーターによって形状変化する3Dモデルや、組み立て用部材の生成が可能です。また、編集・ダウンロードだけでなく、専用のマーケットサイトで自分が設計したデザインを公開することもできます。Rinoceros+Grasshopperに近いアプローチで3Dモデリングにチャレンジしてみたい人は、まずこちらから触ってみるのもいいかもしれません。
FullControl Gcode Designer
イギリス・ラフバラー大学のAndy Gleadall氏が開発したアプリケーション「FullControl Gcode Designer」は、ソフトウェアというよりもプラグインに近いもので、Excelのワークシートに求める動きや形を入力することで、内容に応じたマクロが働き、Gコードに変換してくれるというものです。これまでに紹介した方法に比べて直感的とは言えませんが、数学的思考からモデリングするという一風変わったアプローチです。
魅力はその名にも記されている通り、3Dプリンターでできるはずのあらゆる動作をコントロールできるという点です。例えば、XYZの3軸を同時に動かしながら材料を出力する”Non-Planer Print”や、造形中の材料の押し出し量を自由に制御するなどは、機械の原理上は可能であるものの、通常のスライサーソフトではできない動作だったりします。スライサーソフトの様に「誰でも簡単に」という思想を捨て、代わりに大きな自由度を誇るのが「FullControl Gcode Designer」といえるでしょう。
今回は少しマニアックな内容になりましたが、3Dプリンターユーザーがますます増えていることを実感するなか、新しい方法で3Dプリンティングにチャレンジしたいというニーズもあるのではないかと思い紹介しました。一般的なCADソフトでのモデリングは難しい、肌に合わないという方は、ここに紹介したような方法でチャレンジしてみてはいかがでしょうか?