【Studies】CR-30 (3D Print Mill)レビュー

こんにちは、デジタルファブリケーション協会の井上です。

今回は、多くの3Dプリンターユーザーが気になっているであろうベルトコンベア式3Dプリンター、CR-30 (3D Print Mill)のレビューをお届けします。海外のレビューサイトや動画レビューなどは散見されますが、日本語での記述はほとんど見られないため、気になっている方の参考になれば嬉しいです。

ベルトコンベア式3Dプリンターとは?

その名の通り、造形テーブルがベルトコンベアになっている3Dプリンターです。知られるようになったのはここ数年の間ですが、意外とその歴史は古く、2010年にMakerbot社が自社の3Dプリンターの拡張パーツとしてThingiverseに公開した“Automated Build Platform”が初出と言われています。その後ハードウェアハッカーがベルトコンベア式に改造した3Dプリンターをイベントで発表するなど、散発的な動きがありました。大きな転機となったのは2017年にKickstarterで発表された“Blackbelt 3D”で、こちらが初めて商品として市場に出たベルトコンベア式3Dプリンターになります。またメイカーのNAK 3D Designさんが、オープンソースハードウェアとして発表した“White Knight Belt Printer”も有名なプロジェクトで、今回レビューするCR-30も、NAK 3D Designさんから多くのアドバイスを得て開発されたそうです。CR-30 (3D Print Mill)は深圳を拠点に活動するメイカー・Naomi Wu(aka Sexy Cyborg)さんが発起人となり、同じく深圳発の3DプリンターメーカーのCrealityとタッグを組んで開発され、その背景にはメイカーコミュニティによる協力がありました。CR-30は組み立てキットではありますが、日本でもユーザーが多いEnderシリーズやCR-10シリーズの設計思想が引き継がれています。重要な部分はあらかじめ組まれた状態で届くので、最低限の工作スキルがあれば問題なく組み立てられるようになっています(組み立てレビューはこちら)。

ベルトコンベア式3Dプリンターの特徴とメリット

回転する造形テーブルに、45°に傾いたノズル。特徴的な見た目の3Dプリンターですが、まずはそのメリットを見ていきます。ベルトコンベアにすることで得られるメリットは、大きく2つあります。

1)ベルト方向の造形エリアが(理論上)無限

ベルトを送りながら造形していくため、ベルト方向には造形サイズの制限がありません。造形物がベルトからはみ出しても、支えを用意すれば安定して出力が可能です。先のNAK 3D Designさんは、自身のWhite Knightで長さ6mのレールを出力した記録があります。上の写真は長さ1mのテストピースです。3Dデータは長さ1,000mmで設計し、造形物の実測値は994mmでした(-0.6%)。この誤差がハードウェア上の設定か、スライサー上の設定かは今後も検証を進めていきますが、単一方向とはいえ造形サイズの制約から解放されるのは大きなメリットです。
ちなみにCR-30ではベルト方向が「Z軸」になります。感覚的にベルト方向はXかYだと思っていたので驚きましたが、「XY平面(coreXY機構)が45°傾いた3Dプリンター」と理解すれば、合点がいくポイントでした。

2)連続出力が可能

これまでのFFF式3Dプリンターは、造形が終わるごとに自分で造形テーブルから取り外す必要がありました。造形テーブルに並べられる範囲であれば、複数のモデルを同時に造形することもできますが、一つでも失敗すると周りの造形物も巻き込んで台無しにしてしまうリスクがありました。ベルトコンベア式の場合、造形物を1点ずつ出力できるので、仮に途中の造形が失敗しても、他の造形物に与える影響は限りなく低くなります。ベルトコンベアは造形テーブルであると同時に、紙のプリンターでいうところの「フィーダー」の役割を兼ねているわけです。

ユーザーの関心を集めている大きな理由は、この2つの特徴によるものと思います。「大きなサイズで作れる」と「量産できる」は、これまで3Dプリンターユーザーが欲してやまないポイントでした。他にも実際に試してみて気づいたメリットをまとめました。

3)サポート材の量を減らすことができる

一般的なFFF式3Dプリンターは、溶かした樹脂を1層ずつ水平に積み上げて造形します。そのため、一定の角度以上のアオリがある形状では、下から支えるための「サポート」を一緒に造形する必要があります。造形後のサポート材を外す作業は手間ですし、ほとんどのユーザーにとって取り外したサポート材はゴミとなってしまうので、サポートが少なく済むのは大きなメリットです。ノズルが45°に傾いているベルトコンベア式では、上の動画のようなモデルでもサポートをつけずに造形できました。下の名刺ケースのような中空形状も、サポート無しで造形できるのは大きな魅力です。

4)なだらかな局面が綺麗に仕上がる

一般的なFFF式3Dプリンターは、造形物の面が垂直に近いほど積層痕が目立たず、逆に水平に近いなだらかな面では積層痕が目立つという特徴があります。ノズルが45°に傾いたベルトコンベア式の場合は、こうしたなだらかな曲面の積層痕をあまり目立たせずに造形できます。もちろん、45°に傾いたノズルと平行に近い部分は積層痕が目立ってきますが、これまでのところ積層痕が目立ちにくくなった印象が強いです。例えばRCプレーンの翼のような、長くてなだらかな曲面をもつモデルなどで効果を発揮しそうです。

ベルトコンベア式3Dプリンターのデメリット

ここまで良いことづくめな内容ですが、少しネガティブな内容もまとめていきます。実際に使ってみた感覚として、例えば初めての3Dプリンターでベルトコンベア式を選んだり、従来の3Dプリンターから完全に乗り換えることはお勧めしません。以下にその理由をまとめました。

1)調整箇所が多く、シビア

一般的なFFF式3Dプリンターでも様々な調整を要しますが、ベルトコンベア式の方が調整箇所は多いです。以下の写真中に、調整箇所と項目をまとめました。ベルトの平行やテンション調整などはベルトコンベア式ならではですし、原点出しのためのセンサー位置などは一般的な3Dプリンターではあまりいじることはありません。

ベルトコンベア式ならではの調整箇所があります

普段から3Dプリンターを扱っている人はおなじみだと思いますが、造形の成否は「1層目」がきちんと定着しているかに大きく掛かっています。言い換えれば、1層目がきちんと定着していれば、その後はある程度安心できます。造形するモデルの向きにもよりますが、ベルトコンベア式の場合は「ほぼ全ての層で1本の線を定着面にプリントします」。全てのレイヤーが45°に傾いているため、1回で定着面に乗せるのではなく、各レイヤーに分割された定着面が作られていく形です。このためテーブルのレベリングはよりシビアに行う必要があり、必要に応じてスライサーの細かい設定を調整することもあります。初めて3Dプリンターを使うという人には少々ハードルが高く、従来の3Dプリンターの扱いに慣れ、その原理を理解していないとトラブルシューティングが難しい印象でした。

2)造形する向きによる影響

ベルトコンベア式3Dプリンターは、同じ3Dモデルでも造形する向きによって得意/不得意があります。一般的な3Dプリンターでも「定着が安定する向き」や「材料をなるべく使わない向き」など、造形方向を気にする場面はありますが、ベルトコンベア式ではさらに要件が加わります。

例えばベンチマーク用モデルとしておなじみの3D Benchyの場合で見てみると、船首から造形するか、船尾から造形するかで仕上がりが変わります。船首から造形した場合では船首部分が綺麗に造形されておらず、逆に船尾から造形した場合は綺麗に造形されています。これも45°ノズルによる影響で、「ノズルに対して垂直に近い角度をもつ面から造形を始めるのが不得意」という特徴があります。ベルトコンベア式ならではの特徴を踏まえてレイアウトする必要があります。

船尾から造形した3D Benchy(左)と、船首から造形した3D Benchy(右)

3D Benchyの場合は向きを変えれば解消できますが、例えば「全ての角がC面取りされた立方体」ならどうでしょう?どの角度にレイアウトしてもノズルに対して垂直な面から造形が始まるので、どこかしらに綺麗に造形できない部分が生じてしまいます。従来の3Dプリンターではむしろ得意だったはずのC面取り形状が、ベルトコンベア式ならではの特徴によって苦手な形状になっています。

C面取りされたエッジから始まるモデルでは、1層目から中空にプリントしようとします
最初のいくつかの層が綺麗に出ていないのがわかります(モデル右下部)

3Dプリンターの扱いに慣れてくると、プリントしやすい形を意識して設計するようになってきます。同じFFF式でも、ベルトコンベア式の得意/不得意は従来の3Dプリンターとは異なってくるので、それまで問題なく造形できていた形が苦手なものになってしまう場合があります。ベルトコンベア式3Dプリンターを生かすには、何よりユーザー側の設計上の意識をアップデートする必要がありそうです。

3)サポート材の付き方

うまくレイアウトすればサポート材の量を減らせるのは先に記した通りですが、それでも形状によってはサポート材が必要な場合が出てきます。CR-30を操作するためのスライサーソフトは、現状では同梱されている「Creality Belt Cura」か「BleckBelt Cura」の2種類のみで、どちらもUltimaker Curaをベースとしたソフトです。同ソフトでサポート材の設定を行いますが、どうやらサポート材に関しては一般的な3Dプリンターと同じアルゴリズムで生成しているようで、まだベルトコンベア式に特化されてはいないようです。そのため、ベルトコンベア式では必要なさそうな箇所にもサポート材が生成されます。この点はデメリットというより、今後のソフトウェアのアップデートに期待したいところです。

結論

このように様々なメリットがある一方で、まだ新しい方式であるため初心者には少しハードルが高い印象は否めません。とはいえ、これまでは分割しないと造形できないような大きなモデルが造形できたり、複数のモデルの造形を自動化できたり、サポート材を付けずに中空形状が出せるというのは大いに魅力的であることに変わりありません。今後ベルトコンベア式のユーザーが増えて、様々なノウハウやアップデートが加われば、強力な造形ツールになってくるのではないでしょうか?

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