デジファブパーク制作レポート(2)【デジファブの森を探検】

長野県佐久市にある、佐久市子ども未来館で開催された2022年夏の企画展「デジファブパーク」。会場を彩った数々の展示物の中から、その一部の制作レポートをシリーズでお送りします。レポートの第ニ弾は、展示遊具のひとつ「デジファブの森を探検」を紹介します。

「デジファブの森を探検」は、傾斜の高い位置からボールを転がし、デジタルファブリケーション機器で作られた木々の間をボールがコロコロ転がっていくのを眺めて遊ぶピンボールゲームです。
ゴールには虹色のフィラメントを使って制作した大きな3Dプリンター製の木が立っており、うまくボールがぶつかるとチリンと軽やかな鈴の音がひびきます。

小さな子どもたちが多く遊びに来る佐久市子ども未来館。低年齢でも楽しめるコンテンツのひとつとして計画が進みました。

草案段階でのイメージ図の一部。多くの子どもたちが同時に遊べることや、年齢を問わずに楽しめることを考慮しながら、いろいろなアイデアをスケッチし検討しました。

ピンボール台の制作

大きなピンボール台を制作するにあたり、まず全体のイメージやボールの転がる様子のイメージをしやすくするため、MDF板をレーザーカットして10分の1スケールで模型を作りました。また、配置する障害物も同スケールで制作して、3Dプリントした小さな球体を転がすことでボールの転がり方を確認。デジタルファブリケーションを活用したラピッドプロトタイピングを繰り返しました。
ボールのスピードが出過ぎて勢いよく外に飛び出ることのないよう、途中に傾斜が緩やかになる丘を作り、ゆっくりと転がるようにスピードの調整などを行っています。その丘の角度や、全体の形状など、模型試作の中で何度も調整を繰り返しました。

小さなスケールの模型でイメージを掴んでから、実寸サイズの図面を起こし、いよいよ大きな板材で実際のピンボール台を制作します。板材の加工には、ファブラボみなとみらいに設置されている大型CNCルーターShopBotを使用しました。

切り出した板材をファブラボみなとみらいから、ファブラボ神田錦町に持ち帰って仮組み。運搬やその後の保管のことも考慮し、長手方向を2分割して設計し、現地で繋ぎ合わせて組み立てる仕様にしました。

天板に使用しているのは、よくしなる板材を探してようやく見つけた曲げベニヤ。

障害物の制作

障害物となるツリーは、3Dプリンター製とレーザーカッター製のものを準備しました。今回、設置している佐久市子ども未来館のスタッフの方に実際の運用をしていただくということもあり、現場の判断で容易にツリーの位置を動かせるよう、ツリー裏面に磁石を仕込み、磁力で台へ固定する仕様にしました。

3Dプリンター製のツリーの形状は、試行錯誤を重ね円錐をベースとしたシンプルな形になりました。こちらを棒状の支柱で支えることで、ボールがぶつかった時にゆらゆらと揺れる仕様になっています。また、ゴールの虹色の大きなツリーも同じ要領で制作しています。

レーザーカッター製の木は、ボールがぶつかることで羽がくるくる回転する仕組みになっています。羽がよく回転するように、素材は軽いバルサ材を使用しています。

ボール

転がすボールは木製・ゴム製・スポンジ……などなど、多種多様なものを準備しました。当初、たくさんのボールを試し、その中から転がりやすいものを選別していたのですが、「子どもたちがボールを転がしてみたときになぜ転がらないか?というのを考えるヒントになる」と佐久市子ども未来館の館長さんにアドバイスをいただき、転がりやすさの異なる色々な種類のボールで自由に遊べるようにしました。その思惑通り、たくさんの種類のボールを抱えて転がり方の違いを楽しむお子さまも多く、私たちも新たな気づきや学びを得る機会をいただきました。

ボールを落とし転がすという単純な仕組みの遊具でしたが、自分の手から離れたボールが予測できない動きをしたり、木々にぶつかった時に回転したり鈴の音がしたりといった体験は、狙い通り小さな子どもたちが触れて楽しむきっかけとなりました。また、子どもによってはボールの転がし方を変えたりなど様々な工夫をして遊んでいるのが印象的でした。技術的な理解はまだ少し難しい小さな子どもも楽しめる、体験の場としての装置を提供できたのではないかと思います。