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3Dプリンターとメジャーで時計の機構を作り、学ぶ

こんにちは、工房スタッフの佐々木です。

今回は、工房のユーザーさんから「面白そうなモデルを見つけたから組み立ててみて!」と教えていただいたのをきっかけに、「脱進機」というからくり機構を3Dプリンターで作ってみました。使ったのは「歯車の庭」のmasaさんが設計されたモデルです。ゼンマイを巻くとその力が伝わって反対側のパーツがくるくる左右に回転。電気を使わず、バネの力だけで動く様子を眺めていると、つい何度でもゼンマイを巻きなおしたくなってしまう魅力があります。

脱進機ってなに?

脱進機は、機械式時計などに使われる「動きを制御する装置」です。

ゼンマイから送られてくる動力を一定のタイミングで伝えることができ、昔の腕時計や振り子の壁掛け時計などで使用されています。「一定のタイミング」というのがキモで、このお陰で針が一定の速さで進み、正確に時を刻むことができます。「電池」などの電気的動力は一切必要ありません。ゼンマイ、いわゆる板バネの力だけで、一度きっかけを与えれば動き出します(オルゴールや電池なしで動くおもちゃもゼンマイが動力)。今では時計も電気を動力とするものが主流なため、見る機会が少ないレアな仕組みです。定期的にゼンマイを巻き直す必要はありますが電気に頼らない機構ってだけでロマンがありますね!

使用したモデル

今回使用したのは↓のモデルです。データが公開されており、家庭用3Dプリンターでも出力できる設計になっています。作者のmasaさんのYouTubeチャンネルでは、組み立ての様子も詳しく見られます。

歯車の庭「脱進機 3Dプリンター 無料stlデータ

使用した材料・道具

材料
・コンベックスメジャー(金属製)19mm幅のもの…1つ※100円ショップのものを利用
・ネジ M3×40mm…2本
・ネジ M4×10mm…6本
・釘 φ1.6×32mm 4本 ※φ1.8の真鍮釘の代用でφ1.6の釘のものを使用

使用した工具
・ニッパー
・ペンチ (φ2mm程度の釘を切断できるもの)
・プラスドライバー(+0と+1)
・ドリル φ1.6mmとφ1.8mm
 ※ドリルは使用する釘の径に合わせ、釘と同じ径と+0.2mmを用意。
・つまようじ
・瞬間接着剤

パーツを3Dプリンタで印刷する

作者さんのBOOTHよりモデルをダウンロードします。データは無料で配布していますがBOOTHの利用にはpixivアカウント登録が必要です。

zipファイルでダウンロードされるので解凍し、中にあるstlファイルを使用します。

結構パーツ数が多いので地道に印刷していきましょう。モデル名の頭文字がパーツの種類を表しています。今回は組み立てにPパーツ(振り子パーツ)を使わないのでF/G/S/Tパーツをそれぞれ「一個づつ」印刷しました

作者さんの推奨はPLAフィラメント。サポートを付けたほうが造形品質は安定します。また、パーツの印刷向き(置き方)によって印刷品質が変わるので注意して配置しましょう。

うずまきのパーツは一般的な0.4mmノズルで印刷したところ失敗してしまいました。そのため、0.2mmノズルを使用して印刷しています。

0.4mm。黒い部分は印刷できない。
0.2mmでは全体が印刷可能

ただ、設定で「薄い壁を検出」オプションを有効にすることで、0.4mmノズルでもちゃんと出力できるみたいです!

0.4mmでも全体が印刷できる

メジャーの分解

このために買いました、100円ショップのメジャー。少し勿体ない気もしますが分解して、内部の機構を拝借します。裏側にネジが3本。プラスドライバーを使って外していきます。ネジ山がなめやすいので注意。

分解するとこんな感じ。この黒くてでっかいのを取り出します。作者さんはこのあとメジャーを巻き取りながら取り出していましたが、自分には無理でした。弾力があって、器用でないと巻くのは難しいと思います。作者さんはきれいに巻いていましたが…。

結果、自分は「周りに人がいない広い場所」でずーっと伸ばしていき取り出すことに成功しました。手を切る恐れがあるので、防護具をつけて作業するのがおすすめです。

釘を切る

軸に使う釘を適切な長さに切ります。回転部の軸となるため、ネジではなく表面がツルツルの釘を用意します。本当は釘切り用の工具を使うのが良いのですが、刃が駄目になる覚悟で安いニッパーで挟んで切りました。切った際に切れ端が飛んでいくこともあるので周囲には十分注意してください。

Sパーツ(ゼンマイ)を組み立てる

メジャーから取り出したゼンマイに歯車を取り付けます。向きがあるので気を付けて組み立ててください。

S1・S2でゼンマイを挟み込み、S3の歯車で固定します。板バネの反発があるので緩みにくいですが、ゆるすぎる場合は接着をしてください。

次にS4をはめるために、後ろ側から爪楊枝をさしこんでゼンマイの中心を探します。

S字の切り替え部分があるのでそこにピンを差し込みます。その後、反対側からS5も差し込み、しっかりと押し込んでください。

Fパーツ(フレーム)を組み立てる

F1の中心に2つの穴を開けます。後でここに釘を差し込むことになるので釘と同じ径のドリル(ここでは1.6mm)を使います。

裏側からM4×10mmのネジを取り付けます。この部分がゼンマイ機構の軸になります。ゼンマイを取り付けて、F2で挟み込みます。その後M3×40mmで固定。


この40mmのネジが長く、締め切るまでに時間がかかります。手が疲れるかも、じっくりと。

G(ガンギ車)パーツを取り付ける

ガンギ車は、歯車と振り子(またはテンプ)の動きを制御する、脱進機の中核をなすパーツです。

G1、G2に穴を開けます。釘より0.2mm大きい径のドリル(ここでは1.8mm)を使用します。それぞれ所定の位置にG1、G2を取り付けます。このときしっかり打ち込むのではなく少し隙間を持たせた状態にしてください。手で回したときに抵抗感が少なくスルスルと回る状態が望ましいです。自分は釘が曲がらないよう注意しながらコンコンと金槌で叩いて差し込みまし

Tパーツ(テンプ)を組み立てる 

テンプとは、機械式時計などの中で一定のリズムを刻む振り子のような部品です。

T1の中心に2つの穴を開けます。釘を差し込む場所なので釘と同じ径のドリル(1.6mm)の穴を開けます。T2、T3には釘より0.2mm大きい1.8mmの穴を開けます。


T3、T4、T5を組み立てます。それぞれ向きがあるので間違わないように重ねて行きましょう。少し緩かったので六角の部分を接着しています。


T1にそれぞれパーツを取り付けます。Gパーツの時と同じように釘を打ち込みます。こちらも回るくらいの隙間をもたせましょう。

さぁ、合体!

ゼンマイ&ガンギ車部分とテンプ部分を合体させます。カポッとはめ込めばOK。

ゼンマイを巻いてきっかけを与えると…一定の周期でカチカチと動くようすが見られます。

実際に印刷してみて思ったこと

【思ったより精度がいい】

このような構造物は歯車が何重にもなっており、精度がある程度ないとガタついたり、途中で止まったりします。でも、今回のモデルは出力後にヤスリがけなどの微調整もほぼ必要なく、うまく組み立てできました。

【この仕組みを考えた天才がいる】

電気がまったくいらないのに、ちゃんと動く。しかも、これが昔は実際に使われていたんです。限られた技術でここまでのものを作った先人は偉大ですね。あらためて感動しました。

【100円ショップのメジャーの中身を使おう、という発想!】
ここ。結構自分のなかで痺れたポイントです。3Dプリントで歯車の機構を作る、みたいなものは色々試したことがあるのですが、動力を既製品から拝借するのはあまり例がないような気がします。メジャーを分解することで仕組みの学びもありました。

最後に

今回このデータを公開したきっかけを作者さんに聞いたところ、「脱進機の解説動画を出したときに、データを購入したいというコメントをもらったから」とのことでした。そのコメントからデータの公開をする作者さんの優しさ!

誰かの反応は、ときに人を動かします。作者は反応を楽しみにしていることが多いです。データを使用したときは作者にコメントでも写真でもよいのでフィードバックを返してあげると良いと思います。それによって制作のモチベーションが上がり、モデルの修正・改善が行われ、もっといいものが生まれてくるかもしれませんよ。皆さんもこのレポートを読んで、作ることがあったら、作者さんに愛のある感想を送ってみてください!

この度作成レポートを記事化するにあたってご快諾を頂きありがとうございました。この場を借りて感謝を申し上げます。また、これからの活動にも期待しております!

作者さん紹介

歯車の庭 masaさん
趣味で3Dプリンターをいじっているものです!とにかく試行錯誤を繰り返していますが、失敗したパーツを捨てられなくて困っています笑
Youtubeチャンネル
BOOTH