「たくさん作る」を設計する。デジファブ機器を活用した小ロット量産のポイント

デジタルファブリケーション機器は小ロットの量産にも大きな力を発揮します。ただ、1個作るのは簡単でも、50個以上作るとなるとなかなか大変。加工時間はもちろん伸びますし、材料の準備や位置合わせ、組み立て作業に意外に時間がかかってしまいがちです。効率的に量産するには、「単に1つのものを沢山作る」のではなく、「沢山作りやすい設計」や「同じ作業を繰り返しやすくする方法」を考えることも大切です。
今回は、ワークショップ用に制作したキーホルダーを事例に、レーザー加工機とUVプリンターを活用した「たくさん作る」を設計するためのポイントを紹介します。
授業教材の制作やイベントノベルティ、ワークショップ運営など、「複数個を効率よく作る」場面で活用できる考え方として、ぜひ取り入れてみてください。
スクエア型キーホルダーを90個作成
今回例として制作工程を見るのは、スクエア型のキーホルダー。Maker Faire Kyoto 2026において広島工業大学高等学校ブースで実施したワークショップに使用するために制作しました。

レーザー加工したアクリルを接着し、UVプリンターで裏面に印刷、2つのパーツを接着します。見本等含め90個を作成しました。ここからは、実際の制作の流れに沿いながら、各工程でのポイントを紹介します。
1. 仕様検討と試作
まずは完成品の形状やサイズ、アクリルへの接着方法を検討します。好きな用紙やイラストを挟んで飾れたり、身につけることができる構造にするなど、使い方も含めて試作を行いました。

量産時のポイント
製作物の設計は最も重要です。1つでは小さな違いでも、量産するとなると、大きな違いになってきます。量産では、後工程を見据えて最初のデータを作ることが重要です。
サイズ:レーザー加工機で量産を行う際、大事なのが材料の使い方です。1枚のアクリル板から何個取れるかによって、材料費も加工時間も変わります。板のサイズを考慮して製作物のサイズも決定します。
加工の種類:レーザー加工には切断と彫刻があります。量産で全面加工する場合、ヘッドの移動量が増え、彫刻の時間が大幅に長くなる場合があります。切断のみにするか、ケガキ(パワーを弱くして切断加工で彫刻する)の活用なども検討します。
2. レーザーカット用データの作成
作成したデータを並べ、量産用のアクリルパーツの加工用データを作成します。
量産時のポイント
この段階で、材料からできるだけ多くのパーツを取れるよう配置を調整します。パーツ同士の間隔や配置を調整しながら、できるだけ多くのパーツを切り出せるように並べます。
また、今回の制作では加工後に残るアクリルの枠も活用しました。通常であれば廃材となる部分ですが、UVプリンターで印刷する際の位置決め治具として利用。レーザー用データを作る段階から、「UVプリンターの原点位置」「パーツの配置」「枠の残し方」を考慮してデータを作成します。

3. レーザー加工機で加工(約30分)
作成したデータを用いてアクリル板を加工します。アクリルの保護シートは加工時はヤニ焼けを防ぐために剥がさずにそのまま加工します。
量産時のポイント
加工時間を短くしたい場合には、パラメーターはパワーを強く、スピードを速く設定します。また、長時間の加工を続けるとレーザー加工機の出力が落ちることがあります。数時間に1度、10分程度機械を休ませる時間を持つと、安定して加工できます。
4.カット後の処理(1人で約1時間)
加工後は寸法や仕上がりを確認し、シートを剥がして次の工程へ進みます。

量産時のポイント
アクリル保護用のシートは、そのままだと剥がしにくいですが、水に5分ほど浸しておくときれいにペロッと剥がれます。剥がした後は水跡が残らないよう表面をしっかり拭き取ってください。
5. UVプリンターで印刷(約1時間半)

キーホルダーの背面には、広島工業大学高等学校にある工房を活用した授業や活動の取り組みについての紹介用のQRコードを印刷しました。複数個を効率よく印刷できるよう、位置決め方法も含めて準備を行います。今回は、表面保護のため、カラー印刷後にグロスインクで印刷を重ねたため、印刷時間がやや長めになっています。


量産時のポイント
UVプリンターで複数のパーツを印刷する場合、パーツと印刷の位置合わせでミスが起こりやすいです。そこで私たちは、レーザーカット時の枠を治具として使います。その際のポイントが、原点の目印を入れておくこと。「右下が原点」「この角を合わせる」というルールを決めておくことで、表裏を間違えたり、配置をミスすることが減りますし、作業者が変わってもミスしにくい。小さな工夫ですが、大きな失敗を防ぐ効果があります。

6. 組み立て(4人で約1時間半)
UV印刷したパーツを接着し、キーホルダーとして完成させます。

量産時のポイント
量産では加工よりも組み立てに時間がかかることがあります。複数人で作業すると効率的ですが、その場合、誰が作業しても同じ品質になる仕組みが必要です。

接着剤で固定する工程では、治具を作成すると慣れない作業者でも位置ずれを起こしません。この時、接着後に取り出しやすいよう、治具の裏側に押し出し用の穴を設けるのがポイント。実際に作業する人の動きを想定しながら治具を設計することで、作業効率と品質の両方を向上させることができます。

7.完成

生徒が製作した画像生成AIアプリから出力した画像をキーホルダーに入るサイズに印刷し、カットします。その後、参加者が組み立てたキーホルダーにカットした用紙を差し込んで、ボールチェーンを取り付け、完成です。
量産時のポイント
配布やワークショップに利用する場合、すべてを完成させてから配布する必要がない場合もあります。今回はボールチェーンを通す工程は、あえて取り付けずに参加者にやってもらいました。
受け取った方に最後の組み立てを行っていただくことで、自分で完成させる体験につながり、かつ制作側の作業量を減らせるというメリットがあります。

「たくさん作る」には「工程のデザイン」が必要だ
今回のスクエアキーホルダー制作を通して改めて感じたのは、量産とは単に「たくさん作ること」だけではなく、「工程をデザインすること」だということです。材料配置を工夫する。治具を活用する。迷わない仕組みを作る。組み立て方法を見直す。こうした小さな改善の積み重ねが、量産時には大きな差になります。
デジファブ機器の魅力は、一点ものを作れることだけではありません。工程全体を考えながら設計することで、小ロットの量産にも柔軟に対応できます。イベント用ノベルティやワークショップ教材の制作を行う際は、ぜひ「作品」だけでなく「工程」にも目を向けてみてください。

