【Studies】機械刺繍の基礎の基礎

こんにちは、デジタルファブリケーション協会の井上です。
デジタルファブリケーションStudiesの第5弾をお送りします。

ワッペンやピンバッジなどの製作で使用する刺繍ミシン。弊社でも現在横浜を中心に販売されている「刺繍ラペルピン シグナルフラッグ」の製作をはじめ、企業ノベルティの受注製作から新しい刺繍の企画などで活躍する場面が増えています。とはいえ、こうした刺繍ミシンがどのように動くのか、どのようなデータが必要なのかはあまり知られていません。そこで今回は、刺繍データの作られ方を(かなり)かいつまんで紹介します。実は井上も、機械刺繍に関してはここ数ヶ月間トレーニングを進めています(まだまだ勉強中)。これまで木材や金属など硬い素材ばかり扱ってきたので、本当にゼロからのスタートです。

打ち合わせや見学などでお越しの方に刺繍ミシンを紹介すると、かなりの割合で「画像やイラレデータを入れると勝手に刺繍してくれるんですか?」という質問がきます。プリンターに近い認識がある方がまだまだ多いようなので、自分が最初に作った刺繍データを元に解説します。

上の動画は、井上の「井」の刺繍データのシミュレーションです。実際にこのデータを機械にかけると、動画中の動き方と同じように刺繍されていきます。プリントとの違いは多々ありますが、データ作成の点で気にするところを要約すると、

・使う糸の太さによって密度が変わる
・糸が縫われる向きによって見た目が変わる

この2つがプリントとの大きな違いです。また今回の行書体のような「手書き感」のある文字の場合、「書き順」なども見た目に影響します。さらに刺繍は「一筆書き」でデータを作るのが原則です。この辺りのルールを念頭において、縫い方を決めていくのが機械刺繍の特徴です。動画だとサクサク進んでしまうので、キャプチャで抜き出して解説します。わかりやすいのは2画目の横棒から4画目の縦棒に流れていくところです。

上は2画目の横棒の中ほどまで来た状態です。ここから残りの部分をどう埋めていくか解説します。

2枚目のキャプチャーです。刺繍に隙間が開かないように、4画目の縦棒とほんの少し被せるようにして埋め縫いを止めます。ここからランニング縫いで横棒の一番奥まで走ります。

3枚目のキャプチャーでは奥から手前に向かって縫い進めています。一筆書きで進めつつ、ランニングが埋め縫いの上に来てはならないため、このあたりが刺繍データを作る際の勘所です。

4枚目のキャプチャーでは、再びランニングで4画目の一番上まで走ります。1画目の横棒も、4画目の縦棒と若干被さるように縫われているのがわかります。

最後の5枚目のキャプチャーで、4画目の縦棒を一気に縫いあげて「井」の終了です。

初めて作ったデータなので、プロから見れば下手くそに見えるかもしれません。こんなデータでも当時は半日かかってようやく1文字という有様でしたが、感覚としては切削データ(CAM)を作るニュアンスに近しいものを感じます。とはいえ、このように縫いの向きや順番をパズルのように組み立てていく必要があるため、ビットマップかベクター画像かはあまり関係がありません。ベクター画像から最適な縫い方を生成するアルゴリズムなど、今後の発展として期待したいところです。

最後に初めて作った刺繍データで塗った「井」の字です。

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